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The mirage clock around.



 ある夏の昼下がり。
 射し込んでくる太陽の光でお店の中はいくらか暑い。
 冷房の温度をもう一つほど下げようとして、やめた。
 もうこの家には一人だ。私一人にそこまでの贅沢は許されていないだろう。
 父親は私が生まれてすぐ亡くなり、母親はちょうど一年前に亡くなった。
 だから、私は一人ぼっち。
 最初は孤独に苛まれたが、今では一人に慣れてしまった。と思う。
 両親は時計屋を営んでいたから、私もそのまま時計屋を引き継いだ。
 特にやりたいこともなかったし、こののんびりとした伽藍の空間が好きだったからだ。
 耳を澄ませば、かちこちとあらゆる場所から聞こえてくる時計の生きている音。
 不意に笑みが浮かぶ。お母さんもこうしてカウンターに頬杖をついて楽しんでいたっけ。
 際限なく降り注ぐ光だけが、感傷に浸る私を優しく衣のように包んでくれていた。
 時計に囲まれて過ごしていると、自分の時間がわからなくなるときがある。
 何分経ったのかとか、それだけではなく、自分の時間の感覚が狂ってしまうのだ。
 今は二時。一番、暑い時刻。今日もお客さんは来ない。田舎の時計屋さんなんてこんなものだ。
 からん。
 入り口のドアに飾られているベルがなり、けれど、音もなくその子は入ってきた。
 …ああ、久々に見た。
 私は複雑な気持ちを抑えて頬杖を解く。
 その子は、まだ幼い女の子だった。
 淡い色のワンピース。肩のあたりが切れていてそこから真っ白な肌が三日月のように浮かんでいる。
 栗色の髪の毛がその切れ目まで伸びていて、冷房の風のためか僅かに揺れていた。
 この夏、これほどの露出の多い服を着てなお、透き通った白い肌がとても印象的だ。季節外れの雪かと思ってしまった。
 それでも、この少女がどこか私に似ていると思った。
 こんな綺麗な顔立ちをしているわけでもないし、雰囲気一つすら似ていないけれど。
 胸に抱えている、少女には不相応な大きな柱時計。時は停まっている。
「…あ、いらっしゃいませ」
 決まり文句を忘れてしまうとは、例えどのようなお客様であっても、営業を任せられる者としてあってはならないが、今回ばかりは仕方ないと言える。
 少女は私の目を見つめたまま、黙ってソファーに腰掛ける。
 改めて見ると、お人形のように何一つ傷も染みもなく、それこそ動かずにいれば人形と錯覚してしまうほどの綺麗な女の子だった。
「その時計の修理をご希望ですか?」
 こくんと頷く。私はカウンターからソファーまで歩み寄り、少女から柱時計を受け取る。
 喋りたくないのだろうか、近くで私と目が合うと、ぷいと目を逸らしてしまう。
「少しお時間をいただきますね」
 もう一度、こくんと頷く。中の作業場へ行こうとしたとき。
「動かないの」
 振り返る。少女は俯いたままだった。この店の中に少女と私しかいなかったから、今の一言が少女のものだと理解できた。
 水晶のように綺麗な声。こんな声を今まで聴いたことがなく、また、これからも一生聴くことのないような声。勝手にそう確信した。
「時間が、私が、動かないの」
「そうなんですか…。少し、開けてみますね」
 こくんと頷く。
 裏に回すとき、時計盤に目が留まる。
 時計は二時を指している。…二時?
 なにか引っかかるものがあるが、それもすべて時計ごとひっくり返した。
 カウンターの上でネジを緩めて中を開いてみる。随分と昔の構造だ。
 眼鏡で複雑な構造のどこが悪いのか見ていると、少女がいつの間にかやってきていて、背伸びしてカウンターの上へと顔を覗かせていた。
 くすりと微笑みかけると、少女は慌ててカウンターの下に顔をしまうように隠してしまう。恥ずかしがりやさんなんだろう。
 上辺だけ見てもわからない。もう少し奥の方かもしれない。
「…あ」
 少女も釣られてその先を見る。
 歯車が半分だけ欠けていた。時計の針を回すのに重要な役目を果たす内の一つだった。この歯車が欠けてしまっては動かない。
「見えますか?」
 こくんと頷く。
「歯車を取り替えないと動きそうもありません。同じ歯車があるかどうか見てきますね」
 また、こくんと頷く。
 色々と調べてみたが、同じ部品は見つからなかった。
 とても古い型であるため、応用が利かない。他の部品で代用することが出来ないのだ。
「申し訳ありません。当店では直すことができません」
 少女は、少し寂しそうに目を伏せて、それでも、こくんと頷いた。
 何拍か時が流れて、お店の売り物ではない時計に目が行った。その時計と目が合ったような気がした。
「あの、もしかしたら直るかもしれません」
 くるりと振り向いて、首を傾げる。期待に満ちた目。
 お店の売り物ではない時計、それは両親の形見の時計だった。
 突然の死だったから、これといった形見は何一つない。お店に残った時計と思い出だけだ。
 他のものは売り物だからまた入荷すればいい。でも、これだけは違うのだ。もうどこにも置いていない。
 少しためらったけれど、ドアの上に飾られている時計を外す。埃が少しだけ被っている、大きな時計。
 両親の名前と祖父母の名前が刻まれている。祖父母の代から動いているのだろう。
 時計を静かに置いて、その歯車に触れた瞬間。
『そこの時計をとってくれないか、母さん』
『はいはい、今、とりますよ』
 …え?
 見上げると、少女の後ろには、懐かしい光景が。
 父親と母親が、いた。
 母親の胸には幼き頃の私がいる。母親の髪の毛を引っ張っている、私。
 声も上げられないまま、彼らはドアから出て行ってしまう。
 からん。
 そのドアから、今度はもう少し成長した私と両親が入ってきた。
 からん。
 次はまた成長した私と母親。
 からん。
 また、もっと成長した私と母親。
 どれも覚えていない光景だけれど、どれも幸せそうだった。
 この家に詰まっている思い出は、どれも幸せだった。
 からん。からん。からん。
 ベルが鳴るたびに涙が零れそうになる。
 あの頃は、こんなにも幸せで。
 今は、こんなにも寂しくて。
「時計屋さん」
 不意に。少女は私に問いかける。
 潤んだ瞳のままだったけれど、この少女はすべてを知っていた。構わないだろう。
「時計屋さんは、今も昔も、幸せでいてくれますか?」
 少女は、煌く瞳を携えたまま、けれど、どこか壊れそうで儚くて、硝子細工を思わせる息遣いで問うた。
 今は、過去に比べたら、幸せでないかもしれない。
 けれど、今の楽しみとか幸せとか。
 過去と比べるものではないのかもしれない。
 私なりに、時計屋を楽しんでいて、今ここにいることが幸せだと思っている。
 それならそれで、いいのではないだろうか。
 今も、少女の向こう側には、過去の懐かしい、幸せな記憶が渦巻いている。
 時計の歯車をとってしまったら、もう二度と、その夢でさえも見られない気がした。
「時計屋さんは、それでいいの?」
「ええ。あなたを笑顔にすることが、今の私の幸せですから」
 涙ながらに笑って、そっと、愛しい手つきで、思い出に触れるように、大切に大切に。
 歯車を、取り除いた。
 音を立てて、時計の呼吸は停まった。
 廻っていた時も停まって、本当の姿を見せる。
 幾つかの沈黙。
 震える手で歯車を掴み、少女の時計の歯車と交換した。
 かちこちかちこち…
 時計が、呼吸を取り戻す。
 新しい時計が、呼吸が、動き出す。
「はい、どうぞ」
「ありがとう、時計屋さん」
 不釣合いな時計を抱きかかえて、少女は、今度こそ、音もなく出て行った。
 ドアをすり抜けて行ってしまったのだから、ベルがなることもない。
 頬杖をつく。
 横にある時計は停まっている。指し示す時刻は午後二時。
 再び、静かで優しい時計の音だけが流れていく。
 目を瞑って、ちょっとだけ泣いた。
「…お父さんたちにお線香をあげてこよう」
 口に出して思い出す。今日は、母親の命日。
 お店のシャッターを閉めて、裏にあるご先祖様のお墓へと向かう。
 むせ返るような熱気を放つ太陽が眩しい。不思議と汗はかかなかった。
「…あれ」
 既に一本だけ、お線香が備えられている。
 親族は私しかいない。私が備えた覚えもない。ならば、いったい誰が?
 まだお線香は長い。今しがた、立てていったのだろう。私と入れ違いになったのは間違いなかった。
 不思議と笑みがこぼれて、私が持ってきたお線香に火をつける。
 柔らかな香りと煙が広がる。
 手を合わせて、今日の出来事を報告する。
 きっと、あの少女は、私であって、母親であって、そのどっちでもない子だったのだろう。
 お店に帰ると、部屋の中は少しだけ暑い。
 クーラーの温度を一つ下げた。今日だけは、誰かがいそうな気がした。私だけではないからいいだろう。
 横たわる動かない、大切な時計。
 それを微笑みながら見つめて頬杖をつく。
 これ以降、誰一人、お客様は来なかった。
 けれど、今日は、とても大切なお客様が来た。
 たった一人でも笑顔に出来れば、私は幸せなのだと思う。
 だから、今と昔を比べるのはちょっと間違っている。
 幸せとか楽しみは量ではない。質でもない。
 そんな当たり前のことを一つ学んだ。
 ずっと眺めていた店の時計。何度見ても飽きなかった。
 時計の音、呼吸に抱かれて過ごす毎日。
 なんて幸せなことだろう。
 私は、またあの少女のことを思い出し、笑ってしまうのだった。

 これは、不思議なお客様が数多く集まる、古くて小さなある時計屋さんのお話。


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Ice Cream。

【Ice Cream】=【アイスクリーム】




リトルバスターズ! 発売2日前♪


最近、急に晴れの日が続いて、
随分と気温が上昇したように思えます。



アイスが美味しい季節になりましたね。


スーパーカップのバニラがお気に入りの跳水です、おはこんばんちわ。






今日の日記はこちらになります。






この日記の元ネタは…。




聖地巡礼の「らき☆すた」ファンが地元住民に不審者扱いされる




の記事。



らき☆すた厨は迷惑かけすぎでしょう…。



まぁ、こういう迷惑かけないように、
ほどほどに楽しんでくださいね、とのメッセージをこめて。





行き過ぎたヲタは消えたほうがいいと思ってますし。

大人しく家で通販でもしてろ、とか。




…私ですか?




リトバス、通販しましたけど何か?


プロフィール
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Author:跳水
平凡な毎日…ではない気がする
フツーの大学生の物語。
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